秋の楽しみは紅葉ばかりではありません。一年を通して月がもっとも美しく輝く季節、それも秋なのです。秋の夜長に月を眺めながら人生を思うのも、これまた一興。あるいは市内の各所で行われるお月見イベントに参加するのもいいでしょう。今年は間に合わなくても、情報を知っておけば来年のための計画造りには役立ちます。
京都の秋に興味をお持ちの皆々様、2020年の秋はお楽しみいただけているでしょうか。そろそろ紅葉シーズンも盛りを迎え、あちらこちらの紅葉名所からは燃えるばかりの美しさを愛でる驚嘆の声(それに混じって雑踏にあきれかえる声)が聞こえてくる頃なのですが、紅葉だけが秋の見どころではありません。
時季的にはすでに過ぎてしまっているのですが、月を愛でながら深まりゆく秋を感じるというのも、この季節の醍醐味です。一年を通して月がもっとも美しく輝くとされているのが中秋の名月、いわゆる十五夜です。そして十五夜の月に勝るとも劣らないとされてきたのが十三夜。新暦に当てはめると、9月の中下旬にやってくる満月の夜が中秋で、その次に巡ってくる満月の夜(10月の中下旬ぐらい)が十三夜です。
この二つの満月は、月が見える場所であれば、どこでも楽しめますが、ビジネス街のように周囲の明るさで興ざめになることもあります。そこで鴨川もしくは賀茂川の河原に腰を下ろして眺めるのもいいでしょうし、夜になっても境内が開放されている神社での月見も一興ではないでしょうか。
それだけでもお楽しみ要素は十分ですが、そこにもう一つ加えるのなら、そうした満月の夜にイベントを組んでくるスポットなどは、イチオシになります。もちろん、事前に情報のアンテナを立てておかないとなりません。それでも恒例の行事となっているものもありますので、いくつか紹介しておきます。なお、以下に紹介するのは年中行事のようなものなので、来年のための参考程度にお読みください。
まず大覚寺から。「観月の夕べ」と銘打たれた行事で、嵯峨天皇が始めたという故事に則っています。行事の中身は、大沢の池に龍頭船と鷁首船を浮かべて月を眺めつつ遊覧するというもの。通常の拝観では、眺める対象に過ぎない大沢の池が観賞の舞台となるだけでも有意義なのに加えて、雅楽船の運行などの演出もあって王朝クラスタには格別のひとときとなります。ちなみに2020年度の「観月の夕べ」は人数制限をして縮小して開催されました。
恒例行事で有名どころというと、下鴨神社の「名月管弦祭」も忘れられません。夕闇が迫る頃よりの開演となり、雅楽の演奏や陵王の演舞が行われます。陵王については、中国のテレビドラマにもなっていますし、数年前にはランリョウオーという競走馬もいましたので、雅楽に親しみのない人でも陵王ないしは蘭陵王という言葉は聞いたことがあるのではないでしょうか。舞楽でいうところの蘭陵王とは、美貌の素顔を鬼面で隠して戦ったという伝説の将軍、高長恭をモチーフとした演目のタイトルで、ビジュアルでの印象度はかなり高いはずです。人によっては舞楽のイメージを、この蘭陵王の舞で代表させているケースもあります。この「名月管弦祭」は、もともとは伝統芸能の奉納ということで非公開の神事でしたが、昭和時代の後半より一般公開されるようになり、次第に人気も定着してきました。
「名月観賞の夕べ」は、府立植物園の大芝生地の特設ステージで行われる、無料の野外コンサートです。こちらも30年近い歴史のあるイベントで、近年は有名アーティストのナマ歌を無料で聞くことのできるチャンスとして人気が高まっています。2020年の実施情報はありません。
ここで取り上げた他にも、中秋の夜にイベントを予定しているところは、上賀茂神社や平安神宮、あるいは平野神社や神泉苑など、年々増えているようなので、来年度はどこか狙ってみようと思った方は、事前に調べてみるのがいいでしょう。とはいえ、有料のステージであれば、2〜3日前に調べたところでチケット完売となっているのが普通です。
しかし、植物園や下鴨神社のような無料で公開しているところなら、当日の夕方に早めに駆けつけることさえ面倒くさがらなければ、それなりの場所でステージを楽しむことができます。
なお、中秋の名月は、あくまでも旧暦における設定(8月15日、十三夜は9月13日)ですので、新暦の何月何日と固定しているわけではありません。したがって中秋の夜に行われるイベントやコンサートを予め調べるのは大切ですが、それ以前に中秋が新暦の何月何日になるのかを調べるところから始める必要があることは、肝に銘じておきましょう。