古くから事前申込制(予約制)を導入していたスポットもあれば、最近それを始めた場所もあります。共通しているのは、混雑回避のための方策であるということ。訪れる側からすれば、人混みの煩わしさから解放されるのはメリットですが、予約制であることを事前に知っていないと拝観さえできないことにもなります。
京都の秋は多くの観光客で賑わいます。世界遺産「古都京都の文化財」に登録されている17箇所を筆頭にたくさんの史跡や名勝があるからであり、行政もそれら観光資源を活用すべく積極的な観光客誘致を進めています。
その結果、場所によっては混雑による煩わしさが目立ったり、観光客の心ない振る舞いによって近隣に迷惑が及ぶこともあります。そうしたことへの対策として、場所によっては観光客を制限することも行われています。観光資源があっての観光であることを思うと、やむを得ないところもあるでしょう。
訪れる側の立場から見れば、煩わしい混雑が少なくなるという意味では、歓迎すべきところも少なくありません。
さてそうした対応を実施している有名な場所というと、世界遺産にも名前を連ねている苔寺こと西芳寺があります。
西芳寺は西京区松尾にある臨済宗の寺院で、広大な境内の庭園を埋め尽くす苔の美しさで有名です。その庭園美から「苔寺」との通称も広まりました。この庭園は南北朝時代に臨済禅の高僧で作庭技術にも秀でていた無窓国師によって作られたもので、後の金閣寺や銀閣寺の庭園の原型になったとも言われます。
この西芳寺の評判は、江戸時代から広く伝わっており、観光が行楽のスタイルとして確立された大正期から昭和初期には富裕層だけでなく、一般層にもよく浸透していました。そうした背景から、境内を開放する観光寺院の先駆け的な存在でしたが、いわゆる観光公害なる現象にいち早く直面した場所でもありました。その結果、西芳寺では昭和時代の終わりには往復はがきによる事前申し込み制での拝観に移行して現在に至っています。
他に要予約のスポットして知られるのは修学院離宮および桂離宮です。
左京区修学院に江戸初期に作られ、広大な2面の庭園で知られる修学院離宮、昭和の初め、来日したドイツ人建築家ブルーノ・タウトによって日本美の粋と称えられたことで世界的な知名度を得た桂離宮(建造および作庭は江戸時代初期)、これらは宮内庁が管理する施設であるという関係から、一般的な観光物件とは異なる扱いとなっています。
宮内庁の管理という意味では、京都御所も従来の一般公開(春秋の2回行われていました)の時期以外は事前申し込みによる拝観でしたが、近年は当日受付での拝観もできるようになっています。
なお桂離宮および修学院離宮についても、当日申し込みの枠が用意されているのですが、人気の高い場所である関係から当日枠での拝観は現実的には難しいと言われており、より確実な事前予約が推奨されています。以上がかねてより有名な要予約スポットです。
これらに対して、近年の傾向としてあるのが、過剰な混雑を避けるために予約制を採用して拝観者数を限定するという方法です。
鞍馬にある私邸の白龍園はそうした場所の1つです。春と秋に特別公開されるのですが、時間を分けて100人限定の当日申し込みによる見学と50人限定の事前予約による見学を受け付けています。
2018年秋の特別公開(10月13日〜12月2日)はすでに受付が始まっており、紅葉のピークと予想される11月の下旬の土日はすでに満席となっているようです。
また予約制とは少し異なりますが、拝観料をやや高額に設定することで混雑の回避を行っている場所もあります。
毎年の春と秋に行われる特別公開では、拝観料はおむね600円から1000円の範囲に収まっています。八瀬の瑠璃光院も参加を始めた10年ほど前は横並びの設定に収まっていましたが、最近は2000円という設定になっています。敷地面積の広い寺院に比べると建造物のサイズも狭い割にインスタ映えなどで人気が出て拝観者が殺到したために、制限を行うようになったようです。
ちなみに、秋季のものではありませんが、2018年の初夏には予約制による夜間の特別公開も実施されました。これも少し高額の料金設定でしたが、その場所が有している本来の美しさを混雑から解放された環境で堪能してほしいという意図なのでしょう。
これと同じ趣旨と思われるのが、2017年の秋に実施された二尊院の夜間ライトアップ特別拝観です。「そうだ 京都、行こう。」エクスプレス・カードの会員限定サービスの形で行われた特殊なものであり、相応の料金設定となっていました。もしかすると、今後はこうした形での限定条件が付加された予約制の特別公開が増えるようになるかも知れません。