十牛之庭で知られる圓光寺

一乗寺の圓光寺も、最近になって紅葉が注目され始めたスポットの1つです。従来は一乗寺界隈の見どころとして名前が挙がっていたのは詩仙堂ばかりでしたが、圓光寺や金福寺が加わることで、まとまった観光エリアとしての人気も出てきました。その立役者、圓光寺の歴史や魅力をまとめてみました。

一乗寺にある圓光寺は、江戸時代の初期に徳川家康が下野国(現在の栃木県のあたり)にあった教育機関、足利学校の閑室元佶を招聘して伏見に開いた臨済宗のお寺です。寛文年間に詩仙堂北側の現在地に移転して今日に至っています。 その圓光寺の名前が歴史に刻まれるのは出版史の分野です。開基の時より学僧の教育に力を入れていたことを反映して、境内では活字印刷が行われていました。その結果、圓光寺より刊行された書物(日本最古の木版印刷)は伏見版または円光寺版の名で呼ばれるなど日本の出版史に名前を留めているのです。境内の一隅に設けられた展示室では、その頃に使われていた五万個に及ぶ木製活字(重要文化財)の現物を見ることができます。 なお、この展示室には、同じく重要文化財で寺宝の円山応挙筆「雨竹風竹図屏風」も常時展観に供されていますので、応挙ファンにとって足を運びたい場所となっています。

苔庭と紅葉と、十牛之庭

こうした文化的側面とは別に、この圓光寺が観光目線で注目されるのは、苔庭が鮮やかな赤に染まる紅葉の時期です。近年はSNSを通じてその美しさが拡散されていますので、紅葉が見頃を迎える11月中旬から12月上旬にはかなりの賑わいを見せるようになっています。 古くからあって圓光寺の代名詞でもある十牛之庭のほかに、近年作庭された2様の、合わせて3面の庭が境内にはある中で、紅葉が映えるのはもちろん十牛之庭です。新しく作られた奔龍庭も枝垂れ桜の美しさを引き立てる工夫がなされており、四季を通じて季節の装いを楽しむことはできるのですが、やはり十牛之庭の秋は、観光客の間では圧倒的な評判で迎えられています。 緑を敷き詰めたような苔庭に、朱の点描にも見える紅葉が散らされた眺め、それが縁側越しに絵画のごとく見える情景です。天龍寺や青蓮院のような広大な庭園の魅力はそれはそれとして存在しますが、この十牛之庭のようなコンパクトに集約された美しさは日本庭園の楽しみ方と言っていいでしょう。

京都 圓光寺 紅葉(4K) Youtube

他の季節に比べて秋は特に多くの観光客が集まることもあって、圓光寺では別途料金による早朝参拝の枠も用意されています。一般は9:00からの拝観(500円)になるところを、7:00から入山可能となるのが早朝拝観(1000円)です。静かな環境で十牛之庭を楽しむことを希望するのであれば、利用してみるのもいいでしょう。

【時間】 午前9時~午後5時 【見ごろ】 例年通りでいけば11月中旬~12月中旬が最も見ごろです。

圓光寺で禅入門

ところで、十牛之庭という名前は、どこかユーモラスにも聞こえます。実は、これは十牛図という禅の思想を説いた画題があり、それをモチーフにしているのです。 十牛図とは、仏を象徴する牛を見つけようと志す段階からその存在さえも忘れてしまうぐらいに一体化した段階までを十枚の絵に描き分けたもので、十牛之庭には見方によっては牛にも見える石が置かれています。 ただし、十牛図に従うのなら、それを牛と認識している間は悟りが浅いということになるはずです。そこに目立った石があることさえも気にならなくなるぐらいまで、その眺めが当たり前になった時こそが本当の悟りの境地なのかも知れません。 というのは少し冗談が過ぎるでしょうか。観光目的での来訪に禅の公案を問うのは野暮というか、どちらかと言えば筋違いです。ただし、圓光寺では観光目的の方に境内を公開しているだけでなく、禅の布教にも力を入れています。それが毎週日曜日の早朝6:00(冬季は7:00)から行われる坐禅会(志納、約2時間)です。 事前申し込みによる受付で、坐り方や呼吸法など初歩的なところからの指導が受けられるのに加え、作務、法話、粥坐が組み込まれているので禅寺の暮らしの一端に触れることができます。ちなみに、圓光寺は日本唯一の尼僧専門道場だった関係もあり、女性の体験禅も積極的に受け入れていますので、体験コースがご希望の方は試してみてはいかがでしょうか。

圓光寺

住所:〒606-8147 京都府京都市左京区一乗寺小谷町13

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一乗寺の見どころ

この圓光寺のある一乗寺界隈は、数年前までは観光客目線でも訪れるスポットは、詩仙堂の一択でした。範囲を広げたとしても詩仙堂+曼殊院門跡といったところが鉄板の選択。 それに対して、近年は圓光寺のようにSNSを通して話題となったスポットに加え、アニメで舞台に取り上げられて人気の高まった狸谷不動院、あるいは穴場ハンター目線でクローズアップされた金福寺など面白いスポットも増えてきています。 3箇所ぐらいのスポットが近傍で集中していれば、半日は余裕で過ごせる、そうした基準を適用するなら、一乗寺は単一で紹介するに値するエリアと言ってもよさそうです。