多くの木々が植わっている場所では紅葉が存分に楽しめます。祇園の円山公園はそうした場所の代表格。

明治時代の文明開化を語る文脈でも注目されることが多い円山公園。京都の都市公園では知名度ナンバーワンの場所です。秋には紅葉の魅力を心ゆくまで楽しめるのは言うまでもありません。しかし、円山公園の魅力はそれだけではありません。近代史や日本文化を俯瞰するようなところから見えてくる、そんな円山公園の楽しみ方をご紹介します。

円山公園は、八坂神社の東側に広がる都市公園です。明治初期に行われた上知令(寺社を対象とした土地収用政策)によって八坂神社や長楽寺などから没収された土地を活用して設置されました。日本最初の公園との説明がなされることもありますが、没収地が公園になったのは日本初だとしても「円山公園」と命名されたのは、東京の上野公園や大阪の浜寺公園よりは遅いようです。そうした意味では「円山公園が日本最初の公園」という説明の正当性には検討の余地があります。 なお、この明治初期は、いわゆる文明開化の時代、従来の日本になかった西洋の文物や制度を政府が旗を振って積極的に移入していた頃です。神社やお寺の境内に人々が遊興目的で集ってはお花見などを行うのは日本でも古くからの風習ですが、行政が空閑地を管理して市民の健康増進のために供するというのは西洋的制度です。 そうした施策を反映する「公園」という翻訳語も、この時代に新しく創出されたもので、円山公園はその実施例の1つでした。

円山公園の秋

現代の観光目線で、この円山公園が注目されるのは、公園中央にあって公園のシンボルとなっている枝垂れ桜が豪華に花咲くシーズンです。3月末から4月上旬の、いわゆるお花見シーズンが円山公園の賑わう季節です。もちろん京都屈指の観光地のど真ん中ですので、お花見シーズンでなくても、年間を通して賑わっています。むしろ、どの季節が1番かといった問い自体が意味をなさないくらいの状況という方が正しいかも知れません。春には春の、夏には夏の、秋には秋の賑わいがあるということです(さすがに冬の寒い頃は人出は減ります)。 このように季節それぞれの魅力がある円山公園ですが、秋に特化するとどうなるでしょう。強調するのは、やはり秋色探しです。ブナやコナラなどの広葉樹が黄色く色づき始める段階から、サクラモミジを含め、モミジやカエデの赤く染まる段階まで、幅広く楽しめるのが円山公園の秋です。 10月末から11月上旬なら龍馬像の周辺でも木々が黄色くなり始めていますし、月の後半になると八坂神社境内の北側ゾーンでも紅葉が目立つようになってきます。またこの頃になると、瓢箪池まわりも見映えが増してきます。遠方では将軍塚の木々が色づき、池畔の紅葉が水面に映り込む季節などは格別と言っていいでしょう

隠しアイテムを求めて

さて、ここまで季節に注目して円山公園の魅力を紹介してきました。ただ、春なら枝垂れ桜まわりのライトアップや花見客相手の屋台などの話題も広がるのですが、残念ながら秋にはそうした要素は多くありません。しかし、季節の括りを外してオールシーズンで楽しめる要素とに切り替えるなら、円山公園にはさまざまな隠しアイテムがあって楽しめます。 円山公園の作庭を手がけた小川治兵衛は、近代日本を代表する作庭家というだけでなく、リサイクルの天才でもありました。明治初期の動乱期に廃されたお城やお寺の庭からさまざまな石材を集めてきては、それを各地で再利用しているのです。 円山公園と並んで小川治兵衛の庭として有名な平安神宮神苑では三条大橋の古い橋脚が池の内に埋め込まれて臥龍橋という橋になっているのは有名な話です。円山公園でも、同じように三条大橋のものと思われる橋脚がさりげなく置かれていたりします。 そんななか、注目したいのは石灯籠です。石灯籠には形の違いによって類型名が与えられているのですが、円山公園内には実にさまざまな類型の灯籠が所々に置かれているのです。 スタンダードの春日型をはじめ、寸胴の善導寺型、笠の部分がのっぽになっている蓮華寺型、石板から灯火を入れる火袋の部分だけが丸くくり抜かれた形のもの(類型名不明)などが、思わぬ場所で目に留まります。統一性を欠くどころの話ではないので、おそらくは各地で廃棄された灯籠を集めてきて、園内に置いたのではないでしょうか。これらのほとんどは瓢箪池の東側、公園の敷地が山裾の斜面と一体化しているゾーンに散らばっています。 円山公園の中心部分が枝垂れ桜の周りで、園内を通り抜けるにも知恩院側ないしは八坂神社側入って北に抜けるパターン(またはその逆)がほとんどなので、瓢箪池の東側や長楽寺方面は立ち入る人が少なめになっています。それだけに宝探しのような感覚で、面白げなもの、意味不明なものがないかと探してまわると、それなりの成果も得られます。有名そうで意外に知られていない側面が数多い、それが円山公園なのです。