所詮は飾り物なんだから味はイマイチだね、なんて思わないでください。思いの外に奥が深い和菓子の世界

お茶請けとして発展してきた京都の和菓子、その歴史的な背景から見た目の美しさが話題となる一方、自ら食べるための美味しさを最優先にする和菓子ファンもいます。平べったく言えば、王道派と実利派の対立みたいな感じですが、そうしたことが話題になるのも和菓子を愛する人々の多さを物語っているのかも知れません。

    まずは王道派の和菓子についてお話ししましょう。和菓子は、茶道のお茶の席で、必ず出されています。最初に甘い和菓子を食べて、それからドロッとした抹茶を飲むことにより口の中で甘みと苦み、お茶の香りのバランスが取れてなんとも幸せな瞬間です。 日本人は昔からその楽しみを知っていました。和菓子はお茶を引き立たせるという役割と、もう一つ私達にとって大切な役割がありました。それは、季節を感じるということです。 四季がある日本では、俳句を詠むときに季語を入れるのと同じように、和菓子にも季節を持たせ、四季折々の見た目や色、味わいを楽しんできました。 そこで、それぞれの季節の代表的な和菓子をご紹介していきましょう。 春は日本では桜の季節です。春の季語にもなっている桜餅は、塩漬けした桜の葉に餅菓子を入れてくるんだ和菓子です。桜の香りとあんこの甘みが口いっぱいに広がり、長かった冬がようやく終わりをつげ、温かい春の訪れを感じることができるでしょう。 夏は涼しげな水饅頭や羊羹があります。 秋は実りの季節で、その季節の果物である柿や栗の形をしたものや、紅葉を表した物などがあります。 冬には雪うさぎの和菓子で季節の移ろいを感じていきます。 このようにして私達は菓子の中に四季を感じてきました。    

存在理由をめぐって

京都の和菓子は、各種アンチョコ本でもよく紹介されている通り、茶道文化の中で育まれたところが強く、もともとはお茶請け、つまりお茶(おもに緑茶)の添え物としての性格があります。見た目の美しさを重んじるというのも、茶道の作法が儀礼的に整えられていったのと無縁ではありません。 一方、そうした傾向に眉をひそめつつ、純粋に美味しく食べることだけを目的とした、いわゆるお菓子として和菓子を捉える人も少なくありません。 どちらが正しいとかの議論自体、あまり意味があるとは思いませんが、見た目の美しさも尊重したいですし、紅茶やコーヒー、場合によってジュースと一緒に味わって美味しければ、それはそれで結構なことです。さすがにご飯のかわりに、饅頭や羊羹をたくさん補給するような食生活は願い下げたいところですが、愛らしいお茶請けではなくて、ずっしりお腹にたまる和菓子も、存在理由は十分にあるものと考えています。

ふたばの豆餅、仙太郎の栗むし

あれこれ前口上が長くなっていますが、京都で手に入る和菓子を何か紹介せよと求められると、条件反射的に挙げるのが、ずっしり派の一品、出町ふたば(上京区河原町今出川上ル)の豆餅です。河原町今出川の近所でふたばの場所を訊ねられた場合、「あそこで行列ができているところ」という答え方ができるくらい、いつも行列のできるお店、その看板商品です。見てくれが似た商品は他の店でも見かけますが、食べ比べるとやはり違いははっきりわかります。 ちなみに、この豆餅は、京都在住ではなく、その存在を知っている人にとってはこの上もない逸品と映るようです。そのためお土産にするにはベストの選択、なのですがお土産用に何時間か並ばないといけないのかと愚痴る人もいます。そういう横着な方に対しては、予約も可能ということをこっそり教えておきましょう。賞味期限が当日限りというのが前提ですが、予約をいれておいて速攻で購入、そしてその日のうちに東京でも福岡でもどこでも持っていってみんなで一緒に舌鼓というスタイルを定着させれば、貴方の好感度は間違いなくアップします。 なお、このふたばの豆餅ほどの知名度があるわけではありませんが、仙太郎(下京区四条寺町下ル)の栗むし(正式名は「栗むしようかん」)も美味しくてお腹にたまるずっしり派の一品です。栗を使っている以上、秋限定の季節商品ですが、美味しさの点においては豆餅に勝るとも劣らないと思っています。

出町ふたば

創業1899年(明治32年)の、京都を代表する老舗の和菓子屋さんです。 【住所】京都府京都市上京区出町通今出川上ル青龍町236 【電話番号】075-231-1658 【営業時間】8:30~17:30 【定休日】火曜・第4水曜(祝日の場合は翌日)※お正月休みあり 【アクセス】京阪本線「出町柳駅」下車 徒歩7分・京都バス・市バス4・(17・59系統)バス停「河原町今出川」下車 徒歩2分・市バス(37・205系統)で バス停「葵橋西詰」下車すぐ

仙太郎

素材が持つ本来のおいしさを最大限に引き出したお菓子が魅力です。 【住所】京都市下京区寺町通仏光寺上る中之町576 【電話番号】075-344-0700 【営業時間】8:00-18:00 ※1月5日~2月28日は17:30閉店 【定休日】1月1日 【アクセス】阪急京都線「河原町」駅から徒歩5分

ブランド和菓子

ところでずっしり派の和菓子を優先的に紹介していますが、和菓子は歴史的にはお茶請けとして発展、すわなち接待要員としての働きが期待されてきた一面は確かに存在します。言い換えれば、ご自身で食べて満足するよりは、慶弔にかかわる贈り物やお土産に使って先方との関係をよくするということです。 そうした時に重視されるのは店名、すなわちブランドではないでしょうか。もちろんシャネルやヴィトンがそうであるように、商品がいいからブランドとなったのは確かなのですが、ブランドはブランドとしての使い方をすると割り切って、贈り物を考える時には「鶴屋吉信」や「とらや」などを積極的に使うのもいいでしょう。

鶴屋吉信(つるやよしのぶ)

【住所】京都府京都市上京区 堀川西入ル 【電話番号】075-441-0105 【営業時間】(1F:店舗)9:00~18:00・(2F:お休み処・菓遊茶屋)9:30~18:00(当面の間は10:00~17:00) 【定休日】1F店舗は元日定休、2Fお休み処・菓遊茶屋は水曜日定休(祝日は営業) 【アクセス】四条河原町より京都市営バス12系統「堀川今出川」バス停下車から徒歩1分・京都市営地下鉄「今出川」駅から徒歩約15分

とらや(京都一条店)

【住所】京都府京都市上京区烏丸通一条角広橋殿町415 【電話番号】075-441-3111 【営業時間】(平日)9:00〜18:00(月度により変更有り) 【定休日】元日/毎月最終月曜日 ※4月・12月・2月を除く 【アクセス】京都市営地下鉄烏丸線「今出川駅」より徒歩約7分

きぬた長久堂

個人的な話をいれて恐縮ですが、ブランド力を期待したわけではなく、たまたまお店が近所だったからという理由で購入したところ、思いのほか、先方に喜ばれ、お土産に使う機会が増えたのが長久堂(北区上賀茂畔勝町)の「きぬた」です。遅ればせながら調べてみて、名声が確立されたブランド和菓子だったことを知った次第ですが、求肥を用いた上品な食感が喜ばれます。

きぬた長久堂

【住所】京都北区上賀茂畔勝町97-3 【電話番号】075-712-4405 【営業時間】10:00~19:00 【定休日】火曜日 【アクセス】京都バス「畔勝町」下車、徒歩1分以内・京都市バス「深泥池」徒歩1分程度

八ツ橋をめぐる法廷論争

さて京都の和菓子、そしてお土産というキーワードを並べると、誰しも思い浮かべる和菓子があるのではないでしょうか。八ツ橋です。本家西尾八ッ橋と聖護院八ツ橋、そこに井筒八ツ橋が加わって、さらに後続の数社が絡んで、なかなかややこしい状況となっているのが八ツ橋界隈ですが、最近は八ツ橋問題が法廷に持ち込まれて、さらにややこしくなってきています。一般的なニュースで報じられているような発祥の後先を問うだけのものではなく、かなり根深い対立が背景にあるようです。傍観者の立場で言えば、それはそれで面白いということになるのですが、どうせ報じるのなら、もう少し正確に報道して欲しかったというのが正直な感想です。もちろん、この投稿でも詳しく解説するのは難しいのですが、井筒の老オーナーがいたずらに話を拗らせているだけかのような報道は完璧に間違っているとだけ言っておきます。