秋の色づきを目にすると、私たちは紅葉の季節と思ってしまいます。しかしモミジのことカエデのこと、その他もろもろの落葉樹のことをもう少し詳しく知ってもいいのではないでしょうか。そもそも紅葉(こうよう/もみじ)とは何なのか、そのあたりから始めておいて損することはありません。
京都の秋を演出する紅葉の彩り、スッゴ〜イ!とかキレイだねぇ〜とかの直感的コメントで済ませるのではなく、もう少し掘り下げるとすれば、どのスポットでどういう品種が観察できるのかといったあたりも気になってくるのではないでしょうか。そもそも漢字表記で「紅葉」と書くだけでは、品種のモミジのことを言っているのか、落葉樹に特徴的な現象である葉の色の変化を言っているのか、あいまいになりがちです。そこで、一度立ち止まって紅葉(こうよう)を巡るいろいろを整理しておきましょう。
まず最初に、この文章では漢字で表記する場合は葉の色の移ろいを指し、品種を言う場合はカタカナ表記にすることをお断りしておきます。ということで紅葉に関する一般論から始めるなら、そもそも紅葉とは、気温の変化等々の条件によって葉の中の色素の比率が変わり、緑色から黄色、そして茶褐色や赤色となっていく自然現象のこと。色素の変化は、急激な気温変化や1日の寒暖差など短期間のものだけでなく、夏の間の降水量や日照時間にも影響されるため、年々によって色づきが良かったり、くすんだ感じの色になったりします。全般的に降水量の多かった夏は、秋色の鮮やかさも期待できるとされているので、今年あたりは楽しみにしてもいいのではないでしょうか。
次に品種について。一般にモミジと呼ばれている植物は、植物学で言うところのカエデ属の木の総称です。つまり、モミジとはカエデのこと、というわけです。モミジとカエデはどう違うの?という問いをよく耳にしますが、そういう疑問を持つ人にとっては植物学からの回答は期待外れになるのかも知れません。しかし品種の話題で厳密に答えるのであれば、それより他の説明はできないので、モミジ=カエデなのです。1つ加えるなら、山一面がとりどりに色づく紅葉においては、カエデだけでなく、ヤマツツジだったり、ウルシだったり、カエデ属以外の木々も演出に加わっているのが普通です。
では東山や嵐山でよく目にする紅に色づいた木々は、何という品種なのかという方向からアプローチするならどうでしょう。答えはイロハモミジという名前でカエデ科カエデ属の品種ということになります。
ガーデニングや園芸展示ではなく、一般の人がよく耳にする品種名でいうと、もう一つ、ヤマモミジというものがあります。こちらはイロハモミジの別名と扱われることがあったり、イロハモミジの亜種とされたりすることもあるので、野山のよく目にするのは、イロハモミジやヤマモミジという理解にしておけば、おおよそ当たっているはずです。さらに言えば、このグループにオオモミジを加えておいて、イロハモミジやヤマモミジ、あるいはオオモミジとしておけばほぼ大丈夫でしょう。
もしこれらの間での厳密な違いを求められるとすれば、それはプロでも見分けが付かないから、アッハッハと笑って誤魔化すに限ります。
観光スポット別に見ていくと、どうなるでしょうか。たとえば「モミジの永観堂」との異名で知られる禅林寺こと永観堂。境内には3000本を越えるとも言われるモミジが植えられています。これらはおおむねイロハモミジかヤマモミジで問題ないでしょう。観光雑誌やブログ等で紹介されている写真を見ても、色づいているのはいわゆる紅葉饅頭の形で知られる掌状の葉が特徴的なものばかりです。
カエデ科の植物の中には、切り込みのないヒトツバカエデやチドリノキという品種もありますが、紅に染まる色合いと掌状の葉こそがモミジの特徴と認識されるのが一般的なので、そうしたトリビア的な知識は横に置いておいても構いません。
そうした通り一遍の知識からさらに踏み込んで、イロハモミジ等々以外の品種がないものかと探すのであれば、有名な紅葉スポットで行き当たりばったりの探索をするよりは、北山の府立植物園のような、品種名も掲示されている場所でいろいろの品種を見て回っておき、名前と形状の特徴をあらかじめ確認しておくのが効果的です。
先に事例の1つで永観堂を挙げましたが、3000本以上の個体がすべてイロハモミジやヤマモミジと限ったわけではありません。細かく探すのならトウカエデやハウチワカエデを目にすることもできるでしょう。ただ、それらは鮮紅の景色として遠目で眺めるだけでは、なかなか判別ができるものではありません。間近に近寄って、葉の大きさや形状、あるいは切れ込みの深さ浅さなどからどの品種かを推測することになるので、それ相応に前提となる知識が求められます。