紅葉の季節に桜の魅力を語るのは天邪鬼でしょうか、いいえ、桜にも秋ならではの楽しみ方があります

シダレザクラやソメイヨシノは春の王者ですが、秋には秋の営みに勤しんでいます。桜葉の落葉、いわゆる「さくらもみじ」の演出です。春に桜スポットとしてたくさんの観光客で賑わっていた場所を秋季に訪れてみれば、落葉を前に色あせていく葉の移ろいを目にすることができます。

京都の秋、その見どころが赤く染まる木々の色づきであることには異論はありません。しかし、観賞の対象は品種でいうところのカエデ科の木々ばかりと決めつけていたりはしませんか。春の主役である桜も、実は秋シーズンには少しばかり目を惹く演出をしてくれます。 もちろん10月や11月に花が咲いたりするわけではありません。ジュウガツザクラのように秋にも開花する品種もありますが、ここでは春の主役中の主役であるソメイヨシノを話題にしているので、開花ではない演出、すなわち落葉直前にみせる葉の染まり具合のことです。

[さくらもみじ]

緑色だった葉がしだいに黄色から茶色っぽくなっていき、褐色になって落ちるわけですので、広く言えば赤系統に染まっていく「紅葉」です。しかしながら、あいにくなことに人の高い鮮やかな赤ではありませんし、黄色の段階でもイチョウのような美しい黄色ではなくて生気を失った緑色、人によっては薄汚れた褐色と表現したりするくらいの色です。そのため、桜葉の色づきはことさらに注目されるのことが少ないのかもしれません。 それに、春の開花の頃にように、見頃と呼ばれる期間が1〜2週間と長く続くわけでもなく、くすんだ黄色になってから数日のうちには落葉してしまうので、呆気ないといえば呆気ないのでしょう。 それでも数ある桜名所では、それぞれに秋の演出に勤しんでくれていますので、見る側が意識をすれば、秋の桜も存分にお楽しみ要素を持っているというわけです。ちなみに、世の中には「さくらもみじ」という言葉もあって、桜の葉が紅葉していく様を切り出す言い回しも行われています。

[疏水べりにて]

さて、そうしたことを前提にして、一般にいわれているところの桜名所で、秋にも十分に楽しめる場所を探すとすれば、私の場合、岡崎エリアは疏水べりの桜を挙げたいと思っています。夷川ダム周辺の船溜まりの桜であったり、慶流橋からみやこめっせを巡る疏水の桜だったりが、その対象です。 これら疏水べりの「さくらもみじ」がなぜ魅力的なのかというと、水との取り合わせが絶妙になるからです。よく知られているように、春であれば水面ぎりぎりのところまで花が咲き誇り、さらには花筏の景観が目を楽しませてくれるスポットです。その記憶があるため、秋のくすんだ茶褐色も、印象の度合いが自ずと高くなってきます。 木の一本一本を取り立てて、本当にこれを美しいと思っているのかと訊ねられると、自信を持って美しいと答えることはできません。しかし総体の景色として眺めると、春との落差が情感となってこみ上げてきます。気取った言い方をするとすれば、侘び寂びの境地とでも言ったところでしょうか。

[それぞれのさくらもみじ]

他の桜名所、たとえば円山公園や賀茂川(半木の道)などはどうでしょうか。春との落差をいうのであれば、これらにも相応の魅力をもって迫ってくるはずですが、どういうわけか、疏水べりの桜ほど、さくらもみじの景観に惹きつけられることはありません。そうなると、たぶんに個人的な嗜好が影響しているのでしょう。仮にそうだとすれば、11月上旬から中旬にかけてのさくらもみじの季節に、あちらこちらを巡ってみるというのも一興ではないでしょうか。それぞれの人にとって独自の魅力が発見できるかも知れません。

[季節限定を越えて]

さて、お話が少しばかり無責任な方向に流れててしまいましたので、比較的たくさんの人に共通しての魅力を訴えかけてくれるスポットを紹介しておきましょう。といっても、実はそんなに都合のいい場所があるわけでもなく、種明かしをすれば季節を選ばない、木々の移ろいの多様な様相を観察できるスポットということになってきます。そうすると、もうお分かりかと思いますが、北山の京都府立植物園あるいは京都御苑といったあたりです。 府立植物園でいえば、園内北西エリアの桜林となからぎの森の池が隣接していることもあって、桜林でさくらもみじの魅力がいまひとつピンと来ない人でもすぐ隣に移動して池まわりの紅葉を楽しむことができるという仕儀です。京都御苑では、北西エリアの近衛邸跡が桜エリアであれば、東側(母と子の森)が秋色を存分に満喫できるエリアとなっています。有名な近衛の糸桜が見せる秋の表情に惹かれるものが感じられなかった場合は、東エリアに移動してイチョウの黄色とカエデの赤が織りなすコントラストを味わうという形に切り替えてみてはいかがでしょう。これらの他にも、清水寺など四季を通じて楽しめるスポットで、あえて秋の桜を探してみるというのも面白い試みです