嵯峨釈迦堂こと清涼寺、ガイドブック的眼差しを卒業して、マニアック路線に向かう試金石となる場所

清涼寺

世界屈指の観光都市となった京都には、さまざまな種類のガイドブックが用意されています。しかし行き届いたそれら指南書に寄りかかるのではなく、ご自身の目で対象を眺めると面白さも格段に深まってきます。嵯峨釈迦堂こと清涼寺は、そうしたオリジナルのアプローチができる可能性が随所に散りばめられているスポットです。

清涼寺02京都の神社仏閣めぐりでは、訪れる目的をあらかじめ明確にしておくと楽しみ方の奥行きも深まり、一般には穴場と呼ばれる場所も目に付きやすくなります。たとえば庭園の美しさに絞って訪れるのなら、観光地だからというだけで人気が集中する金閣寺や清水寺以上に、小川治兵衛や夢想国師といった作庭家の心を訪ねるという意味で平安神宮神苑や天龍寺庭園に眼差しは向くでしょう。あるいは妙心寺塔頭の退蔵院なども、むやみに穴場扱いする以前に自ずとアンテナも反応します。さらには場所の善し悪しも独自の基準で行えるようになるはずです。これが庭園探訪ではなく、歴史エピソードや文学作品の舞台とかいう形であった場合、形式や方向性はテーマに即して変わるにせよ、掘り下げ方はカタログ的ガイドブックを手がかりにするだけの観光旅行とは別次元のものとなってきます。いわばマニアック路線への導入編です。嵯峨釈迦堂こと清涼寺はそうしたマニアック向けの試金石的な場所です。

[釈迦堂という異名を手がかりに]

清涼寺には金閣寺や銀閣寺のようなパッと見での派手さはありません。しかしさまざまな方面から引っかかりが生まれてきます。まず「嵯峨釈迦堂」こと清涼寺という言い方、ここで異名・俗称のある神社仏閣という観点が一つ目のひっかかりです。異名・俗称というのは北野天満宮を「天神さん」と呼んだりするケースから始まり、「雀寺」更雀寺や「釘抜地蔵」石像寺などがターゲットになります。清涼寺の場合は、正式名が清涼寺であるのに対して「嵯峨釈迦堂」が異名なので、なぜ「釈迦堂」なのかというところに関心が向くのではないでしょうか。そこに2つめの引っかかりが現れます。ご本尊に対する眼差しです。「嵯峨釈迦堂」と呼ばれるのは、言うまでもなく釈迦菩薩を祀るお寺だからなのですが、お釈迦様を祀る場所は多いにも関わらず、清涼寺に釈迦堂の名前が付されるのは、祀られているのがそれだけ特徴のあるお釈迦様だからです。厳密にいうと「三国伝来の釈迦像」と呼ばれる国宝の木造釈迦如来立像が本尊として祀られており、それに対する関心が異名となっているのです。ご本尊に限定せず、それぞれの仏閣で所蔵されている仏像全般に関心が広がった場合、広隆寺の半跏思惟像、東寺の立体曼荼羅、仁和寺の阿弥陀三尊像などはぜひ実物を目にしたい仏像となるに違いありません。釈迦堂という異名に刺激されたのなら、清涼寺の木造釈迦如来立像もそうしたラインナップに加わってくることでしょう。平安時代、開基の然によって招来された古仏というだけでなく、当時は「生きているお釈迦様」という評判も立ったというエピソードも関心をくすぐる要素です。

[清涼寺の年中行事]

あるいは、年中行事という点からのアプローチも神社仏閣巡りでも重要になってきます。通り一遍のところでは、葵祭や祇園祭といった有名どころの祭事に目が奪われるかも知れませんが、掘り下げられるようになると、マニアックな行事にも視線が向いてきます。京都の三大祭り、ではなく三大奇祭とか三大火祭りとか、少し変わったカテゴライズをされるところへのアプローチです。3月15日行われる清涼寺の「お松明式」は、この三大火祭りの一つに数えられています。ちなみに、他の2つは「五山送り火」と「鞍馬の火祭」です。はたまた清涼寺の嵯峨大念佛狂言(4月第1日曜と第2土日曜)、夕霧供養(11月第2日曜)なども年中行事クラスタならアンテナが反応するところになるのではないでしょうか。

[清涼寺の秋]

紅葉このように、何かとアンテナに引っかかりやすい要素をたくさん持っているのが、この清涼寺なのです。全般的な説明でいえば、金閣寺舎利殿のような分かりやすいアイテムがあるわけでもないのに、この反応の良さは、やはり階層を一つ掘り下げた時に見つかる面白さが多いということなのでしょう。そうした清涼寺、最後に季節の魅力についても触れておきます。比較的、広い境内を有するお寺であり、境内南西隅の聖徳太子殿の周りにはモミジ林があり、秋には華やかさを演出してくれます。渡月橋界隈の雑踏に辟易とした場合は、大覚寺や清涼寺といった北嵯峨方面に逃れてみるのもアリです。清凉寺の境内や庭園には至る所にモミジは植えられ、紅葉シーズンには美しい木々たちを見て楽しむことができます。本堂は400円の拝観料がかかりますが、境内は無料で散策できますし、混雑もさほどないためゆったりと紅葉を楽しめます。まさに、穴場スポットといえますね。見どころとしては、多宝塔・池遊式庭園、弁天堂・大方丈と紅葉の共演が素晴らしく、また渡り廊下の窓から見える紅葉と弁天堂のコラボレ-ジョンがまるで「額縁の絵」のようで、一見の価値ある景色となっています。なお、清涼寺の場合は本堂や霊宝館に入らなければ境内は無料という点で、仁和寺と同じパターンといえます。ピーク時にはいくらか混雑する可能性はあります。そういう場合は清涼寺門前にある紅葉名所、宝筐院にターゲットを変えるのもいいでしょう。 

[清涼寺の詳細情報]

 正式名称:清涼寺(嵯峨釈迦堂)所在地:〒616-8447 京都府京都市右京区嵯峨釈迦堂藤ノ木町46拝観時間;9:00~16:00 (4,5,10,11月は17:00まで)電話番号:075-861-0343拝観料金:境内は無料本堂拝観は一般が400円 中高生が300円 小学生が200円アクセス方法電車利用の場合京福嵐山本線 「嵐山」駅から徒歩13分バス利用の場合市バス「嵯峨釈迦堂前」下車 徒歩すぐマイカー名神高速「京都南IC」から約30分。駐車場:あり(30台収容可能)1回800円。※満車時、近隣コインパーキングあり。紅葉見頃の時期:例年でいうと11月下旬~12月上旬特別拝観:4・5・10・11月に限り霊宝館が特別公開されます。一般が700円 中高生が500円 小学生が300円の料金がかかります。混雑状況:境内が広々しているため、その他の有名観光スポットに比べると混雑はかなり少ない方です。とはいえ、本堂を拝観をする際は午前中のうちに参拝するのがベターです。

[清涼寺周辺の紅葉スポット]

■渡月橋昭和9年に架けられた長さ155メートルの橋は、桂川の両岸を結ぶ重要な交通路になっています。橋の両脇に歩道があり、平安時代に亀山上皇が橋の上空を移動していく月を眺めて「くまなき月の渡に似る」と感想の述べた事が渡月橋の由来になります。渡月橋の紅葉のピーク時には、赤・黄色・オレンジ・深緑のパッチワークのような壮大な山々の姿、そこを流れる桂川の景色の美しさには言葉を失うほど。山々の紅葉は、ゆっくり進むため、例年の紅葉予想よりも少し遅めに訪れると絶景を見ることができます。もちろん渡月橋を渡るのもいいですが、桂川のベンチより渡月橋と山々の紅葉を眺めるのも、ゆったり紅葉を楽しむにはおすすめです。【所在地】京都市右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町【アクセス】JR山陰本線(嵯峨野線)「嵯峨嵐山駅」下車徒歩約13分■小倉山二尊院京都を代表する観光地といえば、嵐山・嵯峨野エリア。ここの小倉山山麓にある天台宗の古刹。参道が馬が駆け抜けられるくらい広いことを由来に、紅葉の馬場と呼ばれています。参道沿いのカエデと、背景になる小倉山のモミジの2つが重なり美しい紅葉を楽しむことができます。例年の見頃は11月中旬~下旬ですが、また違った美しさを味わうことが出来る散りモミジ、こちらを見るには12月上旬に訪れるのが良いでしょう。【所在地】京都府京都市右京区嵯峨二尊院門前長神町27【電話】075-861-0687【拝観時間】 9:00~16:30【拝観料】一般(中学生以上) 500円 小学生以下無料【アクセス】電車→JR嵯峨嵐山駅から徒歩約15分またはJR京都駅から京都バス約45分嵯峨釈迦堂前停留所下車、徒歩10分