亀岡と嵐山をつなぐ約16kmの急流下り、それが保津川下りです。江戸時代に物資運搬の目的で開削された保津川ですが、春の桜や秋の紅葉など、流域の美しさを活用しようと明治時代に始まったのが、この遊船事業です。現代でも人気の高い、この体験型ツアーについて、コースや歴史をまとめてみます。
丹波高原の佐々里峠付近に端を発し、花脊や周山を経て日吉ダムに注ぐ河川があります。ダムを出た河川は南丹市で東南方向に転じ、亀岡市を経て愛宕山の山麓を縫うように流れた後、名勝嵐山に至ります。1級河川桂川で、亀岡市から嵐山のあたりは保津川とも大堰川とも呼ばれています。そして保津川(大堰川)が流れ下る渓谷全体が保津峡の名前で呼ばれています。丹波方面で伐採された木材で筏を組んで流し、京都方面に運ぶ水運は古くから行われていましたが、この流れを木材輸送だけではなく、農産物を含めた物資輸送にも使おうとしたのが江戸時代の豪商、角倉了以です。了以は私財を投じて保津川の拡幅と開削を進め、遂には舟便も使えるようにしました。さらに伏見と京都を繋ぐ高瀬川の開削も行い、丹波と京都・大坂を結ぶ水運の富を独占するようになりました。この保津川と高瀬川の開削は了以の先見性を物語る事業ですが、この一大事業に伴って保津川の渓谷美が世間に喧伝されるようになったのです。江戸時代の儒者たちは、了以を顕彰するとともに、奇岩と激流が織りなす保津峡の美しさを漢詩文で表現しました。書物岩や河鹿岩は彼らの命名であり、桜や紅葉に彩られたそれらの景勝は早く江戸時代には巷間でも聞き知る人が現れていたのです。この保津川を観光資源としてより積極的に活用しようとしたのが、明治時代に始まった保津川下りです。遊船に行楽客を乗せ、船頭の巧みな棹さばきで亀岡から嵐山まで下る、現代の保津川下りとまったく同じスタイルの観光ビジネスは明治の中頃には行われるようになっており、かの夏目漱石も『虞美人草』の中で言及しています。紅葉シーズンの保津川は人気スポットとして非常に混雑するため、保津川下りをする際は、事前に前売り券を準備しておくのが安心でしょう。2019年10月12日(土)~12月7日(土) には、嵯峨野トロッコ列車の紅葉ライトアップが行われます。 紅葉する木の種類:モミジ、カエデ、イチョウ、ウルシ紅葉の見頃:11月下旬~12月上旬 「嵯峨野トロッコ列車」は保津川下りと並行して楽しめる人気の列車です。トロッコ嵯峨駅からトロッコ亀岡駅までの約25分間を、紅葉狩りを楽しみながら、自然の空気を味わい、保津川下りをしている人たちをながめて癒しの時間を過ごすことができます。
トロッコ列車の詳細情報
場所:JR山陰本線の嵯峨嵐山駅に隣接している駅舎
運行時間:トロッコ嵯峨駅からトロッコ亀岡行 始発→09:02発 最終→16:02発トロッコ亀岡駅からトロッコ嵯峨行 始発→09:30発 最終→16:30発
乗車券購入方法:①前売り券 インターネットからの予約か、JR西日本の主要な駅の『みどりの窓口』や全国の旅行会社などでもご購入いただけます。②当日乗車券 トロッコ列車の各駅の窓口にてご購入いただけます。当日分は先着順ですのでお早めにご購入ください。
当日乗車券の販売開始時間トロッコ嵯峨駅 AM8:35頃トロッコ嵐山駅 AM8:40頃トロッコ亀岡駅 AM8:50頃
ここで現代の保津川下りについてみておきましょう。亀岡市の専用船着き場を出た船は、約16kmの流れを2時間弱で下ります。途中には鮎の溯行も阻むという「小鮎の滝」、川岸ぎりぎりにそそり立つ「屏風岩」、うずくまったカエルのように見えるユーモラスな「河鹿岩」、岩肌の地層がまるで書物を重ねたように見える「書物岩」。道中では景勝ポイントがいくつもあり、桜や紅葉といった季節の色合いと相まって、ダイナミックにして風流な船旅を楽しむことができます。 そんな保津川下りですが、日中はもちろんのこと、朝一番の便や夜の便もまたおすすめです。朝日に照らされてキラキラと輝くモミジと、夜にライトアップされたモミジの下をくぐった時の光景は、まったく違った美しさがありますが、どちらも日常を忘れてしまうほどの美しさです。この保津川下りは、峡谷の崖上を走るトロッコ列車と並んで、保津川の観光資源を活用する2つと柱といっていいでしょう。 保津川下りの詳細情報場所:京都府亀岡市保津渓谷一帯営業時間:保津川下り9:00~15:30(12月上旬~3月9日は10:00~14:30)休業:保津川増水時や悪天候時は休み。また12月29日~1月4日は運休します。交通アクセス:公共交通機関だとすれば、JR嵯峨野線「亀岡駅」から徒歩約8分(保津川下り乗船場)車で向かう場合は、京都縦貫自動車道「亀岡IC」から国道372号・府道403号を経由し、府道25号をJ「R亀岡駅北口方面へ」約4km。現地に着くと無料駐車場があります(100台)料金:保津川下り大人4100円 小人(4歳~小学生)2700円。詳しくはJR亀岡駅観光案内所(0771-22-0691)もしくは亀岡市観光協会ホームページにて確認してください。 ところで、この保津川下りをめぐっては、トリビア的な話が語られることがあります。亀岡から下ってきた船はどうやって亀岡へ帰っているのかという話です。普通に考えれば、トラックか何かでの陸送ということでしょう。正解はその通りなのですが、それでは保津川下りが明治時代より行われていたというのであれば、かつての回送はどうやって行われていたのでしょうか。これは、京都で木屋町を遡上する高瀬舟もそうなのですが、自然の流れに逆らって上流に向かう舟は陸から強靱なロープを掛けて上流に引き上げる、いわゆる曳舟が行われていたのです。保津川下りの場合は、流れの激しさがありますので、船頭にとっては下り以上に過酷な作業だったらしく、1日に1往復が関の山だったそうです。ちなみに、現代の保津川下りは、季節によって異なりますが、1日に6〜7本の運航が行われています。それはさておき、保津川の曳舟の過酷さを物語るのが、行程の随所で観察できる「綱の跡」という岩に残された痕跡です。曳舟の最中に綱を岩に掛けてつなぎ止めるのに、同じ岩を使い、同じかけ方をするものですから、次第に傷跡のような窪みとなって岩肌に刻まれていったのだそうです。観光事業の保津川下りだけでなく、水運で用いられた船舶も同じことをしていたのですから、角倉了以の時代からの記念碑的な痕跡と言ってもいいでしょう。この曳舟は長らく行われていましたが、戦後ほどなくして陸路の回送に変わったそうです。話は少し変わりますが、保津川は清滝川と合流するあたりで大きく屈曲しています。清滝川沿いの遊歩道を歩いて高雄方面より下ってくると、この合流点のあたりで遊歩道は舗装路に吸収されています。そして舗装路の先には短いトンネルがあり、トンネル上部が展望台のような高台になっていてます。その上に立つと、保津川の上流方面と屈曲した下流方面の両方を見渡すことができます。またこの場所からは河原に下ることもできるので、川岸でやってくる舟を待ち構えて手を振ってあげる等のお遊びを楽しむこともできます。