京都老舗の鞄屋と言えば「一澤帆布」

一澤信三郎帆布出典:一澤信三郎帆布

京都は、その昔日本の中心地であったことから、古くから発展し続けていた古都です。その為、多くの「老舗」と呼ばれるお店が、今も京都府内に点在しています。祇園にある「原了郭」、宇治にある「上林春松本店」など、有名店も創業何百年と続く「老舗」の1つなのです。そんな京都の老舗の1つに、「一澤帆布」という帆布製の鞄を作り続けいている老舗があります。今回は、この「一澤帆布」という老舗の鞄屋さんについてご紹介しましょう。

現在、「一澤帆布」は「一澤信三郎帆布」と「喜一澤」の2つに分かれています。どうして、2つの分かれなければならなかったのか、この2つの違いは何かをご説明していきましょう。[hr][/hr]

「一澤帆布」の歴史

一澤信三郎帆布ミシン出典:一澤信三郎帆布について|一澤信三郎帆布
明治38年(1905年)に、京都の地で「一澤帆布」が誕生します。このころは、当時では珍しかったミシンを導入し、道具入れなどを作っていたそうです。昭和初期には、アメリカ製の工業用ミシンを導入して、職人さんの道具を入れる「道具入れ」や牛乳屋さんや酒屋さんのための「配達袋」などを作っていたそうです。第二次世界大戦中も、落下傘を収納する「傘嚢」や「ハンモック」を作ることでお店を続けていました。戦後には、登山ブームに乗ってテントやヤッケなどを作り、アルピニストと言えば「一澤」と言われるほど、人気を博したそうです。昭和40年代に入り、若者が見る雑誌などに取り上げられることで、ワンダーフォーゲル部や山岳部などの一部のものだけでなく、多くの若者にも注目されるようになり、「帆布」と言えば「一澤」と、「一澤帆布」の名を定着させます。このようにして素朴な帆布のカバンに光が当たり、「道具袋」のイメージから脱却し、そしてお洒落なカジュアルバッグとして人気を集めていったそうです。この戦中戦後の昭和期を支えてきたのが、3代目の信夫です。平成に入り、この3代目の信夫が死去したことで、彼の3人の息子による相続争いが始まるのです。[hr][/hr]

相続争いによる分裂

3代目には、3人の息子がおり、三男の信三郎が早くから父・信夫を手伝い、職人として活躍していました。長男は、「一澤帆布」には入社せず、全く別の仕事をしていました。しかし、3代目・信夫が死去することで、この長男が相続争いに名乗りを上げました。父の遺言書には、信三郎が株式の大部分を相続するということが書かれていましたが、その4ヶ月後、兄を継承者とするといったまるで異なる内容の2通目の遺言書が出てきたのです。民法上では日付が新しいものが有効となるが、信三郎は不自然な点があると訴えたそう。このような京都の老舗のお家騒動に京都中が注目しました。結局、信三郎の訴えは最高裁で認められずに兄の勝訴が確定しました。信三郎はこうして社長の座を追われることになったのです。しかしながら、信三郎はこのまま終わらなかったのです。当時の「一澤帆布」の職人を全員連れて「一澤信三郎帆布」を立ち上げます。一方「一澤帆布」は、勝訴した長男と、それに四男とが加わり、再スタートさせたのですが、後に2通目の遺言書が偽書であると最高裁で認められ、長男・四男・新しい役員の全員が追放され、信三郎とその妻、彼についていった多くの職人たちが、「一澤帆布」を取り戻すこととなったのです。今日に至るまでに様々な苦労をした信三郎ですが、相続争いに負けたことをきっかけに、職人をはじめとしてみんなの気持ちが信三郎の職人魂に火をつけ、そして再びカバンづくりをすることを決意したのだそう。現在、「一澤帆布」は「信三郎帆布」「一澤帆布製」「信三郎布包」の3ブランドを展開しています。「一澤帆布」を出ることとなった四男は、「喜一澤」という新たな店舗を構え、小さいながらも「一澤帆布」の意思を継ぐ、鞄製作を行っていますcaede京都コレクションページへ

「一澤信三郎」と「㐂一澤」の違い

ichizawa出典:N-04【中】|一澤信三郎帆布
三男の立ち上げた「信三郎帆布」では、従来の無地の帆布製鞄だけでなく、女性受けする柄物の鞄なども数多く展開しています。また、デザインやサイズも富み、若い職人たちの感性が反映された商品が、広い店内に並んでいます。ダントツ人気となっている看板商品は「道具袋」(3240円~)という名をしたトートバッグです。幅広い色やサイズ展開であるため、いろいろな使い方ができます。ビジネスシーンは書類やパソコンなどをたっぷり入りますし、持ち手の色を変えたものはオシャレで大人の雰囲気です。大きな内ポケットがついているので貴重品も入りますし、なんと中にはペットの子犬を入れている人もいるそうです。これに比べて少し小さめの「手提げ」(2916円~)は女性に人気だそうで、お弁当入れにピッタリだとか。また、最近人気を集めるのが一見ランドセルのようにも見える「リュック」(2万2680円~)。このように色々な商品が並ぶので探すのが楽しくなりますね。これに対し、四男の立ち上げた「㐂一澤」では、「一澤帆布」時代の無地の帆布を使った製品が狭い店内に並び、鞄よりも財布やブックカバーと言った小物が大半を占めているといった印象です。値段もわりと廉価な商品が多いので、手にとりやすいですね。新しい帆布製の鞄を求めるなら、「信三郎帆布」をオススメします。対して昔ながらの「質実剛健」を表すような、帆布製鞄を求めるなら「㐂一澤」をおススメします。今では、別々の道を行くことになった2つの「一澤」ですが、先代の「一澤」の思いをそれぞれに引き継ぎ、より良い商品を作り続けていくことでしょう