
世界屈指の観光都市となった京都には、さまざまな種類のガイドブックが用意されています。しかし行き届いたそれら指南書に寄りかかるのではなく、ご自身の目で対象を眺めると面白さも格段に深まってきます。嵯峨釈迦堂こと清涼寺は、そうしたオリジナルのアプローチができる可能性が随所に散りばめられているスポットです。
京都の神社仏閣めぐりでは、訪れる目的をあらかじめ明確にしておくと楽しみ方の奥行きも深まり、一般には穴場と呼ばれる場所も目に付きやすくなります。たとえば庭園の美しさに絞って訪れるのなら、観光地だからというだけで人気が集中する金閣寺や清水寺以上に、小川治兵衛や夢想国師といった作庭家の心を訪ねるという意味で平安神宮神苑や天龍寺庭園に眼差しは向くでしょう。あるいは妙心寺塔頭の退蔵院なども、むやみに穴場扱いする以前に自ずとアンテナも反応します。さらには場所の善し悪しも独自の基準で行えるようになるはずです。これが庭園探訪ではなく、歴史エピソードや文学作品の舞台とかいう形であった場合、形式や方向性はテーマに即して変わるにせよ、掘り下げ方はカタログ的ガイドブックを手がかりにするだけの観光旅行とは別次元のものとなってきます。いわばマニアック路線への導入編です。嵯峨釈迦堂こと清涼寺はそうしたマニアック向けの試金石的な場所です。[釈迦堂という異名を手がかりに]
[清涼寺の年中行事]
[清涼寺の秋]
このように、何かとアンテナに引っかかりやすい要素をたくさん持っているのが、この清涼寺なのです。全般的な説明でいえば、金閣寺舎利殿のような分かりやすいアイテムがあるわけでもないのに、この反応の良さは、やはり階層を一つ掘り下げた時に見つかる面白さが多いということなのでしょう。そうした清涼寺、最後に季節の魅力についても触れておきます。比較的、広い境内を有するお寺であり、境内南西隅の聖徳太子殿の周りにはモミジ林があり、秋には華やかさを演出してくれます。渡月橋界隈の雑踏に辟易とした場合は、大覚寺や清涼寺といった北嵯峨方面に逃れてみるのもアリです。清凉寺の境内や庭園には至る所にモミジは植えられ、紅葉シーズンには美しい木々たちを見て楽しむことができます。本堂は400円の拝観料がかかりますが、境内は無料で散策できますし、混雑もさほどないためゆったりと紅葉を楽しめます。まさに、穴場スポットといえますね。見どころとしては、多宝塔・池遊式庭園、弁天堂・大方丈と紅葉の共演が素晴らしく、また渡り廊下の窓から見える紅葉と弁天堂のコラボレ-ジョンがまるで「額縁の絵」のようで、一見の価値ある景色となっています。なお、清涼寺の場合は本堂や霊宝館に入らなければ境内は無料という点で、仁和寺と同じパターンといえます。ピーク時にはいくらか混雑する可能性はあります。そういう場合は清涼寺門前にある紅葉名所、宝筐院にターゲットを変えるのもいいでしょう。

