
「御室」とは尊者に居所に向けられた敬いの言葉です。仁和寺の別名でもあるこの言葉には、仁和寺の歴史が籠められています。春の観光シーズンの締めくくりとなるのが「御室桜」と呼ばれる仁和寺の遅咲き桜ですが、秋に秋ならではの魅力もあります。秋の見どころと併せて、仁和寺の秘宝をご紹介します。
仁和寺は平安時代の前期に開かれた真言宗寺院です。宇多天皇が出家して僧坊を構えたことより「御室」の名前が生まれ、以降、皇族が住持を務めるなど皇室とも深い繋がりのある場所でした。そうしたところから御室御所と称され、多くの子院を設けるなど鎌倉時代から南北朝の頃までは繁栄を極めていました。徒然草で仁和寺の法師の素行をあれこれ悪し様に書き連ねた吉田兼好が活躍したのは、この鎌倉末期から南北朝の頃に当たるので、仁和寺に向けられた眼差しは、ある意味、権勢者への僻みと見ることもできます。
それはさておき、長きの繁栄を極めていた御室仁和寺でしたが、都にある多くの神社仏閣と等しく、応仁の乱によって壊滅的な被害を被ります。その結果、法灯は一時的に衰退することになるのですが、江戸時代初期の寛永年間に伽藍群の移築・再建が行われて再興、そうして現在に至っています。
五重塔や金堂など、現在の境内を彩る堂宇の多くは、この寛永期に移築・再建されたものです。たとえば金堂と御影堂、ちょうどその頃に改築が行われていた京都御所の紫宸殿と清涼殿が金堂と御影堂として移築されているので、御所の正殿がまるまる移ってきていることになり、仁和寺の重みもうかがい知ることができます。
御室の宝物、阿弥陀三尊像
皇室からの崇敬を集めていたことも影響して、仁和寺には数多くの貴重な文化財が伝わっています。中でも特筆されるのは、本尊でもある国宝阿弥陀三尊像です。両脇に2体の立像を従える中尊の柔和な表情は、平安彫刻が国風の様式を確立し始めた頃のものとされています。
京都で名のある仏像を訊ねる時、決まって出てくるのは広隆寺の弥勒半跏思惟像です。しかし、少し詳しい人なら半跏思惟像に加えて東寺の立体曼荼羅、それにこの仁和寺の阿弥陀三尊像を挙げる傾向にあります。そのくらいに有名な存在なので、先の「仁和寺と御室派のみほとけ — 天平と真言密教の名宝 —」(東京国立博物館で開催された特別展、2018年1月〜3月)でもとりわけ人気を集めていました。
御室桜の季節

こうした仁和寺が季節の彩りで注目されるのは、おもに春となります。遅咲き桜の代名詞にもなっている御室桜の季節です。境内にはソメイヨシノやシダレザクラも植えられていますが、仁和寺の桜といえば四月中旬に咲き揃う、低木の御室桜と相場が決まっています。この丈の低い桜林越しに眺める五重塔は絵画的な風景となるので、多くの観光客やカメラファンを楽しませます。
秋の仁和寺

もちろん、春だけが仁和寺の輝く季節ではなく、秋には秋の彩りもあります。御殿内の庭園で見られる秋色は、これも相応の風情を伝えています。たとえば御殿の宸殿前。北庭の植え込み越しに五重塔が眺められるスポットなのですが、木の葉が赤みを帯びてくる頃には、池辺の木々が秋の仁和寺を存分に演出してくれています。
五重塔を借景とするこの北庭を手がけたのは、平安神宮神苑や円山公園の作庭でも知られる小川治兵衛です。明治20年に失火によって御殿が焼失した際、寛永期に造営された構造を活かしながら現代風にアレンジしたのだそうです。
お得に楽しむ仁和寺探訪
御室八十八箇所とは
全行程を踏破するのに要する時間は、せいぜい2時間程度なので、ハイキングに親しんでいる人であれば普通に歩き抜くことができます。低山ながらも、一応は山中の行程なので木々の彩りを味わうには十分ですし、行程のほぼ真ん中あたりには、展望台のように眺望が開けるスポットもあって、プチハイキング気分で楽しむことができます。
この御室八十八箇所めぐりは、仁和寺境内の西門を出たところがスタート地点で、山中を一巡した後に同じ場所に戻ってきます。境内での秋探しで飽き足りない場合は八十八箇所に足を伸ばしてみてはいかがでしょう。

