木々の移ろいに秋を感じるのなら京都府立植物園。時間的に厳しい折、ちょっとだけ秋の彩りに触れるのにも格好の場所です

紅葉

有名観光地における人の波に辟易とした時は府立植物園あたりでの秋で気持ちを落ち着かせましょう。独特の赤が目を惹くフウの木、定番ながらやはり美しいカエデの鮮紅、深まりゆく色合いに季節の進行を思わせるケヤキ並木、それぞれの場所でそれぞれの秋が堪能できる絶好の場所です。

山科地下鉄烏丸線を北山駅で降りて3番出口から地上に上がると、目に前に総面積が約24万平方メートルに及ぶ京都府立植物園が現れます。大正13年(1924)に設けられた、日本でもっとも古い公立の植物園です。京都の観光スポットに秋の彩りを求めてやってきたつもりなのに、目に付くのは人・人・人、人の波。と、そんな事態に嫌気をおぼえたのなら、この府立植物園あたりでお口直しをしてはいかがでしょう。清水寺や渡月橋まわりのような混雑はありませんし、イチョウの黄色やカエデの鮮紅など折々の色彩にもきちんと出合うことができます。

[なからぎの森の池]

そうした中で、府立植物園の秋を象徴する木を1つ挙げるとすれば、どうでしょう。人それぞれで好き嫌いは変わってくるでしょうが、あじさい園の傍らに聳えるフウの大木などはどうでしょうか。台湾原産の品種で典型的な落葉広葉樹です。年々によって差はあるにしても、だいたい11月になってほどなくの頃より紅葉が始まり、約1ヶ月をかけて進行していく感じなので、移ろい具合を観察するという意味では面白い対象になります。最初のうちは緑茶褐色が混じり始めた感じであまり美しいとは言えません。それでも季節が進み、紅葉が次のステージに入っていくと赤みが濃くなっていき、11月下旬には鮮やかなレンガ色の衣をまとった巨木へと変わっています。

[フウの巨木を前にして]

こうした移ろいの妙ではなく、カエデ科の紅をピンポイントで求めるのなら、やはりなからぎの森の池周辺でしょう。しかし、池にせり出した四阿の周りは、水辺にやってくる野鳥を望遠レンズで狙うのは格好の場所になるらしく、カメラマンが待機していることが多く、常時は言い過ぎだとしても人口密度が高めになっているのは残念なところです。それでも、その四阿から半木神社のあたりにかけてはカエデの比率が高く、紅葉がピークを迎えるタイミングを狙って訪れると水面に映る紅との取り合わせもみごとな景観を眺めることができます

[正面プロムナード]

他に特徴的な秋色スポットはといえば、相応の知識がないと面白みも分からない植物生態園は除くとして、わかりやすいところでは温室前のイチョウであったり、正面プロムナードのケヤキだったりするでしょうか。正面プロムナードのケヤキは、初夏の新緑がもっとも美しいと思っているのですが、ブログその他、ネット界隈で紹介される写真を見ていると、秋の色づきもなかなかいい雰囲気を醸しているようです。北山通と北大路通の間、賀茂川左岸の設けられた遊歩道「半木の道」も散歩で利用するには心地よい場所で、河川敷でくつろぐのと併せてたくさんの人が利用しています。そんな楽しみ方のバリエーションに、たまには植物園の正面プロムナードに移ってみるというのを加えておくのも悪くないのではないでしょうか。

[植物園を通り抜ける]

ところで府立植物園へのアクセスに関して一言。地下鉄北山駅の真っ正面にあることより、一般的には最寄りの交通機関は地下鉄北山駅という説明をしています。京都を訪れるのが初めてで土地鑑が皆無に近い人に向かってなら、それが最適な案内になるでしょう。それはそれで良しとしておいて、加えてもう1つ、北大路駅から北山駅への移動(またはその逆ルート)を植物園経由の形で案内するのも必要なのではないでしょうか。というのは、時間をかけてたっぷり京都を楽しむのではなく、時間面で限られた条件のもと、京都にやってきた人に対しては、より有効な時間の使い方が必要になるからです。まず絶対的に時間が少ないということで地下鉄駅から近い植物園などは、格好のスポットです。ただし園内を隈なく巡回するのではなく、イイトコ取りをする形で横断(縦断?)できるのなら、時間的にはさらに好都合となるはずです。具体的には、北山駅最寄りの北山門から入園、そして正面プロムナード側の正門から退出というだけのことで特段に難しい話ではありません。逆を試みるにしても北大路駅から北大路通に出て賀茂川を越えた後に植物園に入り、園内を巡った後は北山門から北山駅へ、というだけの話です。ただし正門と北大路駅の間は、プロムナードを歩く時間も含めて10分ほど要することになりますし、その間のルートもきちんと知っておかねばならないという条件が付きます。北大路通に沿って歩くだけという至って簡単なものなのですが、それでも1人で歩くことを考えるのであれば、ある程度の土地鑑がついてからでないと簡単とは言えないかも知れません。