京都鷹峯の禅刹、源光庵は悟りの窓と迷いの窓と呼ばれる特徴的な窓から眺める景色の美しさで人気のスポットです。秋、この窓を通して眺めるのは、真っ赤に色づいた紅葉の庭。この源光庵を含めて、江戸時代前期を代表する文化人・本阿弥光悦が開いた芸術村のエピソードで知られる鷹峯の魅力をご紹介します。

豊臣秀吉の御土居によって確定された京の北西隅、その外縁に位置し、
京と丹波を結んでいた長坂道の始点に開かれた集落が鷹峯です。
江戸開府から程ない元和元年(1615年)、京都の刀剣鑑定家の本阿弥光悦が幕府より与えられた租税免除の土地でした。
本業の関係から朝廷とも繋がりがあった光悦は、書家としての名声も高く、後水尾院の庇護を受けて、当代きっての文化人として世間からよく知られた人物でした。それだけなら問題はなかったのですが、幕府の権力にも媚びるところがなかったので、厄介払い的な措置で都の外に追いやられた面もあるようです。
しかし、当の光悦は煩わしい付きあいからも解放される辺土への転居を歓迎し、一族朋友を引き連れての集団転居となったのでした。その面々には尾形宗柏(呉服商、尾形光琳の祖父)や紙屋宗二(紙職人)、三代目茶屋四郎次郎(呉服商で朱印貿易も手がけた豪商)も含まれており、
光悦の鷹峯は芸術家・職人・スポンサーが集住する文化村としての体裁を持つに至ったのでした。
光悦より数代の後、土地所有のもめ事が頻発したこともあって、鷹峯は幕府に返上され、光悦の芸術村は歴史の中に姿を消すこととなりますが、
近世初期のアート空間として記憶されるべき名前が鷹峯です。
現在の鷹峯は本阿弥光悦の芸術村を偲ぶというよりは、曹洞宗寺院源光庵の人気で多くの観光客を迎えています。
源光庵がこの地に開かれたのは元禄7年(1694年)で、鷹峯が本阿弥家から離れた後のことです。寺伝による開基は南北朝時代に遡りますが、その場所は定かではありません。
現代における
源光庵の人気は、本堂にある二つの窓、悟りの窓と迷いの窓によるものです。
悟りの窓は、丸く「禅と円通」の心とされ、円は大宇宙を表現しており、ここを見ることで、悟りの世界が開けると言い伝えられています。
それに対して
迷いの窓は、四角で「人間の生涯」を表し、生と死、または病気などの辛い感情と言われています。
丸と四角の対照的な形状の窓が並び、それを通して眺める庭の景観が、四季折々の色合いを引き立てています。そして、その人それぞれの人生によって窓から見る景色は異なるとも言えるでしょう。
とりわけ秋の紅葉は配色の妙と構図の美しさを兼ね備えていますので、訪れる人たちは自らの1枚を撮ろうと窓の前に列を作ります。
また、
源光庵は伏見城の遺構で血天井が貼られている場所のひとつです。
血天井とは、血痕の付着した床板を寺院の天井板に転用したもので、血痕の主を供養する目的で行われます。
源光庵のものは、関ヶ原の合戦前夜、伏見城が西軍の攻撃によって落城した際に城内で自刃した武士たちの血痕であり、生々しい手形や足形は肉眼でも確認できます。
この戦いでは家康の側近だった鳥居元忠も命を落としており、数ある伏見城ゆかりの血天井の中では、特に有名な場所です。
現在の鷹峯で、
本阿弥光悦の芸術村を偲ぶことができるのは、光悦の名を冠した光悦寺だけです。光悦の邸宅だった場所で、彼の死後に日蓮宗の寺院として創建されました。
敷地には庫裏や茶室もありますが、
一般公開に供されているのは庭園のみです。
それでも一隅には光悦の墓もあり、時代を超えた文化人を偲ぶには最適の場所となっています。
なお
光悦寺では茶室の垣根に特徴があります。
割竹が菱形に組み合わされ、頂部に割竹の束が乗せられるという独特の意匠なのです。この組み方は光悦が好んだものとされ、光悦垣と呼ばれています。

光悦は日蓮宗の熱心な信徒でした。
常照寺は光悦の養子、光瑳が日蓮宗総本山の身延山久遠寺より日乾上人を招いて開いた寺院で、境内には日蓮宗の学問所も置かれた程です。
江戸吉原の高尾太夫・大坂新町の夕霧太夫とともに寛永三名妓の1人で光悦とも親交のあった島原の吉野太夫が山門(吉野門)を寄進したことでも知られ、吉野太夫の墓もこの常照寺にあります。
その山門に至る参道両側にはモミジが植えられており、色づく頃には朱色の山門がよく映える風景となります。
鷹峯という地名は、本来は光悦が開いた芸術村より西方にあった山を指すとする説もあります。
現在の行政上の区分(住所)では、その一帯にすべて鷹峯という冠がついています。
光悦の鷹峯から、丘陵部の鷹峯を抜けた先は、
清滝川沿いの中川地区です。
北山杉の産地として有名なエリアで、川端康成の小説『古都』の重要な舞台です。
『古都』では、北山杉の光沢を出すために菩提の滝で集めた磨き砂を使う旨が記されていますが、その
菩提の滝、あるいは『古都』の映像化でよく使われるロケ地の沢の池があるのも、この丘陵地帯鷹峯の一角です。
江戸時代後期の文化2年に創業された京醤油の老舗です。
商品は高島屋などのデパートでも同じものが手に入りますが、鷹峯観光の折に本店に立ち寄って購入すると、少し特別な買い物をした気分にもなります。
【紅葉の見頃】例年、11月中旬~11月下旬とされています。
【拝観時間】
2021年秋頃までとしておりました庫裏改築による拝観休止の期間を、
工期延長に伴い再開を2022年春まで延期いたします。
拝観再開は2022年4月1日を予定しております
【拝観料】
400円 ※11月のみ500円
【アクセス】
市バス「鷹峯源光庵前」下車 徒歩約1分 ※バスの本数が少ない為、事前に時刻表を調べてからお出かけすることをおすすめします。
【住所】
京都府京都市北区鷹峯北鷹峯町47
紅葉の見頃
源光庵での例年の紅葉の見ごろは、
11月中旬~11月下旬とされています。秋が深まるにつれて、カエデの葉が徐々に色づき、やがて燃えるような真紅の紅葉が、いたるところを華やかに彩ります。
源光庵の紅葉の見どころ
源光庵と言えば、やはり本堂にある丸い「悟りの窓」と四角い「迷いの窓」ですよね。
これら2つの窓から眺める紅葉は、まるで絵画のような美しさです。うっすらと暗い本堂から臨む窓の外の鮮やかな紅葉を見るために、毎年多くの観光客が訪れます。さらに、真紅の紅葉の中をより華やかに彩る花「山茶花」も見どころです。真っ赤なモミジと白い山茶花のコントラストは、素晴らしいものです。
常照寺

常照寺は、約5,000坪もの広大な境内を持つ日蓮宗の寺院です。
春の桜が美しいことで知られていますが、秋の紅葉も素晴らしいもので、ピーク時には多くの観光客で賑わいます。見どころは、朱塗りの山門と、真っ赤に染まった紅葉との美しい調和です。比較的混雑が少ないので、静かに紅葉を堪能したい方におすすめです。常照寺での例年の紅葉の見頃は、11月中旬~11月下旬となっています。
【所在地】京都市北区鷹峯北鷹峯町1
【電話番号】075-492-6775
【拝観時間】8:30~17:00
【拝観料】大人:400円(紅葉時期は500円)・子供:200円
【アクセス】北大路駅から市バス北1系統「鷹峯源光前」下車、徒歩2分
光悦寺

光悦寺は京都市北区の住宅街に位置しているため、京都の中心部よりも観光客が少なく静かなお寺ですが、秋になると美しい紅葉を鑑賞できる名所とされています。鮮やかに彩られた庭はもちろん、紅葉のトンネルとなっている参道も見どころです。
【所在地】京都府京都市北区鷹峯光悦町29
【電話番号】075-491-1399
【拝観時間】8:00~17:00
【拝観料】大人:300円(紅葉時400円)
【アクセス】市バス「源光庵前」で下車、徒歩約3分
三千院

気温の寒暖差が大きい山間の盆地に位置している三千院は、秋になると見事な紅葉で訪れる人の目を楽しませてくれます。特に、緑色の苔と紅葉の赤や黄とのコントラストが見どころです。秋色に包まれた往生極楽院をゆっくりと鑑賞してはいかがでしょうか?
【所在地】京都府京都市左京区540
【電話番号】075-744-2531
【拝観時間】9:00~17:00 ※11月 8:30~17:00、12月~2月 9:00~16:30
【拝観料】一般:700円、中高生: 400円、小学生:150円
【アクセス】JR京都駅からバスで約60分、「大原」下車、徒歩10分・地下鉄国際会館駅からバスで約20分、「大原」下車、徒歩10分
まとめ
源光庵は、SNSなどの写真で人気スポットではあるのは間違いありませんが、その窓には色々な意味が詰まっている事も含めてご覧になっていただくと、また違った見え方が出来るかもしれません。あなたもぜひ、源光庵でゆっくりと紅葉を楽しみながら、自分の人生について考えてみてはいかがでしょうか。